富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

週刊トミノ展

WWT008

ガンダムだけじゃない、富野アニメの奥深い魅力

「富野由悠季の世界」では、『鉄腕アトム』から劇場版『Gのレコンギスタ』まで、半世紀を超える富野アニメの展開を紹介しました。『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』など、アニメ史に輝く名作を含むフィルモグラフィは、まさにレジェンド!しかし多数のスタッフが共同制作するアニメーションで、富野作品ならではの深い味わいはどこから生まれてくるのか―制作過程で残された資料から“監督の仕事”を描出することは、「概念の展示は不可能」と監督に危惧されたとおり困難な挑戦でした。

『ブレンパワード 』で例示すると、構想初期のイメージ画「ORPHAN Beyond the Mobile Suit」ではガンダム的なメカのシルエットに、逆に“脱ガンダム”への強い意識が感じ取れます。初期イメージボードには深海から浮上する巨大なオルファン。『シーマ・シーマ』『王の心』などの富野小説にも、宇宙へ浮遊していく大地は現れます。知的生命体の記憶をとどめる大いなるものが銀河へ旅立ちゆくイメージは、『リング・オブ・ガンダム』のリングコロニーや『Gのレコンギスタ』のビーナス・グロゥブに連なる構想。遠い未来に太陽が寿命を迎える時が来てもなお、人という存在を存続させる―それは目先の経済に囚われる現代人への極大スケールの公案―そうした監督の観念を肉付き豊かな人間ドラマに具現化すべく、永野護は「アンチボディ」と呼ばれる生体マシンを案出し、いのまたむつみはニュアンス豊かなキャラクターをデザインしました。

富野監督は世間の期待する“ガンダム的なもの”の縮小再生産ではなく、常に先端的な新機軸を提示します。ブレンパワードでは、初期話数の絵コンテをみずから手がけてスタッフに指標を示し、それが軌道に乗るに連れて物語も弾んでいくライブ感が紙面から読み取れます。菅野よう子の音楽も本作の豊かな情感には欠かせない要素。ことにエンディング曲『愛の輪郭』は井荻麟の作詞と相まって毎回、深い余韻を残しました。その背景で用いられた荒木経惟の花の写真の艶かしさも印象深く、神戸会場で展示できたのには興奮しました。

アニメーションは絵が動くだけではなく、音楽や声優の演技や、もちろん物語まで、あらゆる要素が一体となった映像作品。その総合芸術の、全体を“総合”するのが監督の仕事。さまざまな才能がひとつとなって富野作品ならではの魅力を放つ。「概念」は説明しきれませんが、言葉にできないものも体感してもらえるよう学芸員たちは力を尽くしました。ぜひ会場でお確かめください。
(富山県水墨美術館 若松基)