富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

週刊トミノ展

WWT012

富野監督の「原点」を探る 〜「与圧服」の立体化と青秀祐〜

展覧会の導入部である1部1章の「富野由悠季を形作ったもの」に展示されている「与圧服」は富野監督の父が戦時中に研究開発に携わった、航空機パイロットの身体を気圧変化から保護するためのスーツです。このイメージは富野監督の「未来」と「宇宙」に対する想像力を大きく膨らませていく「原点」となったものです(ぼくは『2001年宇宙の旅』に登場する宇宙服を想起してしまいました)

今回の展覧会を企画するにあたり、現代作家によるありがちな「オマージュ作品」はやめにしましたが(笑)、富野作品をより深く理解するための仕掛けづくりを2人の現代作家にお願いしました。その一人が青秀祐さん。富野少年に強い影響を与えたイメージでありながら小さな紙焼きしか現存しない「与圧服」を、導入部のシンボルとするため、青さんに等身大で立体化してもらったのです。航空機パイロットを父に持つ青さんは、まるでアイデンティティを探求し続けるかのように飛行機をモチーフとした作品を数多く手がける作家です。

青さんにはこれまでも僕が勤務する青森県立美術館の企画展でインスタレーションの設置を2度依頼しました。これは空と飛行機をテーマにした「Art and Air」(2011年)に出品された、オリジナルデザインの紙飛行機2450機を用いたインスタレーション《Operation“A”》の展示風景。無数の紙飛行機が規則正しい配列によって整然と宙に舞うその様はとてもクールで美しい一方、空中の占拠によって見る者に威圧感を与えるなど、飛行機という機械が持つ「多義性」に気づかされる作品です。

こちらは「ラブラブショー2」(2017年)で展示された《Ghost Lightning》。当時自衛隊に導入予定だった「F35-A ライトニングⅡ」を実機サイズそのままに、絵画(平面)を袋状に構成した外皮の器に空気を注入することで表現しています。キャノピーを金箔で仕上げたり、ノズル部には焼箔を用いるなど伝統絵画の技法も取り入れており、それが「絵画」であることを強く意識させてくれます。

その手法を用いて青森会場で展示される予定の作品が、「週刊トミノ展002」でも紹介した「リ・ガズィ」の原寸大ダミーバルーン胸像です。平面に記録されたものを原寸大の立体に置き換えると情報量は飛躍的に増加します。「与圧服」のオブジェからも富野監督が少年時代に抱いた想いや、監督のデザインに対する志向性などがより明確に読み取れるのではないでしょうか。

富野作品は「アニメ」という枠組みを越えて、広く文化や産業にも大きな影響を与えています。ゆえに富野監督の「原点」である「与圧服」には、現代という時代の「原点」も暗示されていると言えます。それを象徴的に示したものがこのオブジェなのです。
(青森県立美術館 工藤健志)