富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

週刊トミノ展

WWT016

赤い小道具

チームリーダーの山口氏から『赤毛のアン』第8章の絵コンテは『∀ガンダム』最終話につながるものではないか、という仮説を最初にうかがった際にはその含蓄を理解できずにいました。それからしばらくして『赤毛のアン』を見返す機会を得たのですが、その時に初めて山口氏の指摘の鋭さに気付きました。氏の仮説はこうです。

展覧会で紹介する『赤毛のアン』とみの喜幸名義の絵コンテ(第8章アン日曜学校へ行く)には高畑勲監督による修正指示が確認できる。帽子を飾った花輪をアンが池に投げ入れるシーンだが、とみの絵コンテではオーバースローで花輪を投げる動作だった所、高畑は「この野球投げはやりません」と別のポーズとするように修正指示を加えている。完成した映像ではアンは下に垂らしていた腕をスッと上にあげるだけの静かな動作で花輪を放り投げる。
【写真01 富野由悠季『赤毛のアン』絵コンテ/ 高畑勲 修正指示 日本アニメーション所蔵】

話はそこから20年とんで『∀ガンダム』50話。主人公のロラン・セアックに思いを寄せていたソシエ・ハイムがその思いを断ち切るようにロランが大切にしていた金魚の玩具を川に投げ返す場面。この時のソシエのアクションはまさしくアンの絵コンテに記されているような「男っぽい」思い切りのよいもの。これは時を隔てての富野監督による意趣返しではないか。

大胆な仮説ですが、山口氏によれば監督にこの類似が意図的なものか尋ねたところ、アンのコンテの修正自体初めて目にするので覚えていない、とのお返事だったそうです。

とはいえ富野由悠季監督のキャリアにおける『赤毛のアン』の重要性を考える上で、この二つのシーンの類似を単なる偶然として片づけてしまうのはもったいないようにも思われます。そこで、ここでは女性がものを投げる時のアクション(ポーズ)の類似に加えて、「赤い小道具」という補助線も引いてみたい。注目したいのが『赤毛のアン』「第17章アン、学校にもどる」中盤の2分ほどの場面です。

この回で、心の友ダイアナと遊ぶことを禁じられたアンは久しぶりに学校に行き、友人たちの暖かいもてなしを受けます。無神経な発言でアンを怒らせてしまい、それから口をきいてもらえないギルバート・ブライス、そしてアンに好意を寄せるチャーリー・スローン、二人の男の子がアンへの贈物を用意します。問題のシーンはギルバートのりんごとチャーリーの石筆というふたつの贈物を軸に展開します。

この挿話では、冒頭部分と最後のオチの部分のいずれにもりんごが画面に登場し、この赤い小道具が重要なモチーフであることが示されます。机の上に置かれていたりんごはアンの口元に上昇して、机の上に戻され、それから床に=下の方向に移動し、最後にまた机の上に戻ってくる。最後のカットは、居残りをさせられたチャーリーとりんごだけが教室に残された場面です。この一幕は、りんごという赤い小道具を主役にして3人の人物の心理的なやり取りをユーモアたっぷりに表現するものです。

『∀ガンダム』の金魚の玩具という赤い小道具を鍵にした演出法は、やはり富野監督が『赤毛のアン』において培ったものではないか。少女時代に別れを告げるように、から元気を振り絞って金魚を放るソシエの姿をみるたびに、山口氏の仮説に勢いを借りて私も想像力をたくましくするのです。
【写真02】『∀ガンダム』第1話より
【写真03】『∀ガンダム』第50話より
【写真04~06】富野由悠季 絵コンテ 『∀ガンダムII 月光蝶』 サンライズ所蔵
(兵庫県立美術館 小林公)

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